ピアノを弾く女性

10年以上前の事でしょうか。
私は母に連れられ、あるピアニストのコンサートに行きました。
ヨーロッパの世界的ピアニストが来日して開催したコンサートです。

とても美しい音色で、時が経った今でも、耳に焼き付いています。

しかし、同時に驚いたことがありました。
彼はアンコール曲として、当時の私が
とっくに先生から合格をもらっていた子供のための
小品(*編集部註:絵画・彫刻・音楽などで、規模の小さい作品。)
を演奏していたんです。

幼かった私は「何故こんな簡単な曲を弾くんだろう。
練習が大変だからかな?」というくらいにしか
思うことが出できませんでした。

しかし、それから。
何度もそのようなコンサートを目の当たりにし、
ヨーロッパの先生のレッスンを受けていく中で、
私は、その理由を理解するようになりました。

それはただ、「弾きたいから」なんです。

子供のための曲だからといって、内容まで子供向けかといったら、
そうではありません。
とても美しく、情緒的なものが多くあります。
テクニックとしては単純でも、
「表現したい」と思う何かを曲に感じたら、
心から演奏しようと思えるんです。

ある程度の年齢になってくると、演奏する曲は、
一定の難易度を超えたものから選ばなければいけなくなりました。
コンクールや学校の試験では、仕方のないことです。
しかし本当に弾きたい曲を選択できなかった時、
少しストレスに感じてしまいます。

どんなに簡単な曲でも、「この曲を弾きたい」といえば、
ヨーロッパでは「問題ないよ」といって
満足のいくまでレッスンしてくれます。
それは、前の記事でも述べた、
テクニックよりも表現を重んじる、
ヨーロッパ特有の考えなのだと思います。

どんなにテクニックとしては難しくても、
自分が弾きたいと思えない曲は、
「完璧に」弾いたとしても、人の心を動かすことはできません。

シンプルでも、心から表現したいと思い、
その為に努力を重ねた演奏は、それは深く、心に響きます。

それこそが本来の音楽のあるべき形なのではないでしょうか。

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