脳:ネットワーク

脳には1000億個の神経細胞があるそうです。
ところがこの神経細胞は増殖しないだけでなく、
1秒間に1個くらいのスピードで死滅しています。
結果、1日数万という数の神経細胞が減るのです。

そんな話を聞くとがっかりしてしまいますが、
脳科学者の池谷裕二さんは
「脳の個性」を保つだめだと考えています。

どんどん生まれ変わることで神経細胞が
「入れ替わって」しまったら、「記憶」が失われて、
個体のアイデンティティを保持できなくなります。
池谷さんは「長い自然淘汰の過程で、
神経細胞を増殖させずに、同じ細胞を生涯かけて使い回す
という方法を選んだのでしょう」と結論付けています。

神経細胞が減少するという現実と、その必要性を知った上で、
別に何か元気になるような話は無いのでしょうか。

実は、神経細胞そのものが減少しても、脳を使えば使うほど、
神経細胞同士をつなぐ部分(神経繊維やシナプス)の数は
増加するのです。
脳の働きは神経細胞の数ではなく、
ネットワークの質と量で決まると考えられていますから、
勉強することは、脳の性能自体を良くすることにつながるのです。

さらに最近の研究では、記憶に関連する「海馬(かいば)」
という部位の神経細胞は「増殖」することが分かりました*1。
ロンドンのタクシー運転手の脳を調べたら
職歴の長い人ほど神経細胞の数が多かったのです。
2万4000もの通りが縦横無尽に張り巡らされたロンドンで
タクシー運転手の仕事をするためには膨大な量の記憶が必要ですが、
インプットとアウトプットを日常的に繰り返すことで
海馬の神経細胞が増加したのだと考えられます。

子どもたちは「こんなこと勉強して将来何の役に立つの?」
という疑問を持ちますが、『勉強する「内容」はさておき、
勉強する「行為」そのものが、脳の性能を良くするのだ』
という答えはどうでしょうか。
将来、やりたいことが見つかった時に高性能の脳が
その夢を実現するのに貢献するのは間違いないでしょうから。

*1 海馬そのものに記憶を保持するわけでは無いので
神経細胞の増殖でアイデンティティが失われたりはしません。

参考:
池谷裕二『記憶力を強くする』講談社ブルーバックス(2001年)
川島隆太他『脳のなんでも小事典』技術評論社(2004年)

 

 

9つの誤解:間違いだらけの“子育て”